設立経緯
本法人は、滋賀県で構築された「全県型遠隔病理診断ICTネットワーク事業(通称、さざなみ病理ネット)」を基盤とし、今後さらに発展させ全国に広げていくべきであるという使命から別組織として独立したものです。
さざなみ病理ネットは、2010年に滋賀県の健康福祉部(現在、健康医療福祉部)、病院事業庁、滋賀県立成人病センター(現在、滋賀県立総合病院)が中心となりその検討が始まったものです。翌年には総務省の「地域ICT利活用広域連携事業」、厚生労働省の「地域医療再生臨時特例交付金」からの支援が得られることとなり、2011年末から滋賀県病理ICT協議会が結成され、システムと回線網の構築、参加病院の確保と運用実験を経て、2013年7月より本格的に稼働しました。
当初から、ネットワークの自律的存続を目指して法人化の可能性を検討してきておりましたが、1県内だけで自立できるものではなく、他都道府県も同じ悩みを有しているため、全国的視野に立った組織の設立が模索されていました。2016年、2017年に渡って、滋賀県病院事業庁とさざなみ病理ネット運営作業部会で検討を重ね、今後、滋賀県のネットワークは小回りと気配りのできる県内組織「滋賀県病理ICT協議会」として存続し、新設される一般社団法人PaLaNA Initiativeに運営の一部を依頼する形で二つの団体に分離することになった次第です。
PaLaNA Initiative自体は、2017年から本格的に検討を始め、2018年からは設立母体となる組織を立ち上げ、検討を重ねた結果、2019年1月11日に法人設立の申請を行い受理されました。
設立趣意
医療の現場では「正しい診断なくして、正しい治療はない。正しい診断は病理診断によってのみ得られ、確定される」と言われています。現在、臨床所見の他、病理診断や病理組織検査から得られる情報によって、患者個人に最適な治療法を選択する個別化医療とか精密医療(precision medicine)がなされる時代となってきました。これら病理診断や病理情報は病理医が下し、読み取り提供します。
ところが、我が国ではその病理専門医の数が約2200名、保険医登録されている者は1800名程度と著しく不足している状態で、今後も多くの増加は見込まれない状態です。
一方、2025年には高齢者が人口の30%を超えるなど人口動態の変化が予測されています。現在すでに日本人2人に1人が生涯に一度はがんに罹患するほどに増加しているのみならず、さらには治療法の進歩も加わって一人の患者が複数のがんを罹患するようにもなっています。
2014年にはがん罹患患者数は88.2万人で当時2025年には92.5万人になると推定されていましたが、2017年にはすでに101.4万人と報告されています。その他、高齢化、治療による免疫状態の低下や国際化などに伴う地域を超えた感染症の増加も加わって腫瘍以外の疾患も増えています。これらの診断の多くも病理医が担っているのです。このため、病理診断検体数は2005年に1千2百万件で、2012年には2千万件を超えていて、その後指数関数的に増えると考えられている状況です。
このような状況下でどのようにすれば現代医療に適応する正確で利用価値の高い病理診断や情報を迅速に提供していくことができるのでしょうか。私達は、病理業務を改善し、(1)病理医でなくても出来る仕事は機械や多職種の人に委ねる、(2)一人の病理医が1症例に費やす作業量、作業時間を減少させ、同一時間で処理出来る症例数を増やし、(3)離れた場所にいる病理医がグループとして相互支援の下で業務できる体制を構築する、言い換えれば、数少ない病理医を有効に活用することによって質の高い病理診断を早く臨床に返却できる手段を構築する必要があり、それは(4)情報コミュニケーション技術の導入、病理業務に関する技術開発と病理医間や関連施設間を結ぶネットワークを構築するとともに人材を育成することで得られると考えています。
この目的を達成するためには、現状を把握した上で5年先、10年先の将来を考えた制度設計とそれが実行されることを斡旋、支援する機関が必要だと考えました。これが、私たちが本法人を立ち上げた目的です。①遠隔病理診断システムの運営と普及、②同システム設置の支援、③同システムを使っての病理医同士の診断支援や施設連携による診断支援ネットワーク構築の斡旋、④病理医および病理検査技師の教育と支援、⑤新規病理検査、病理検査室体制、診断技術の開発とその支援、などをその活動の中心とし、その最終目標として患者や患者のケアに関わる主治医に正確で質の高い病理診断と病理情報を早く提供し、現代の医療に貢献することのできる体制構築に寄与しようとするものです。